渓流に落ちた葉は、渓流の様々な場所に落ち葉だまりを作る。渓流の流れは複雑で、落ち葉だまりのでき方は多様である。落ち葉だまりは水生昆虫にとって住処であり食料であり、また渓流の物質循環にも重要な役割を果たしている。研究では落ち葉だまりを、河床微地形、水生昆虫、堆積落ち葉の観点から類型(タイプ分け)し、各タイプごとにたまりやすい落ち葉の種類、水生昆虫の集まり方、落ち葉の分解のされ方を調べた。淵のど真ん中にできる落ち葉だまり(淵央パッチ)は、水生昆虫が良く集まり、落ち葉の分解も速いという特徴を持ち、2m以上の巨礫がごろごろ存在するような渓流にたくさんできやすいことを明らかにした。
スギは戦後の拡大造林により日本の各地に植えられ、今や花粉問題で嫌がられる日本の代表樹種。山にたくさん植えられたスギは渓流生態系にどのような意味があるのだろうか。研究ではスギ林をながれる渓流と広葉樹林をながれる渓流で住んでいる水生昆虫を調べた。広葉樹林の渓流では水生昆虫の量は多いが一種(ヨコエビの仲間)が幅を利かせており、スギ林の渓流では水生昆虫の量は少ないがたくさんの種類が共存していた。渓流に落ちたスギの葉は、水の流れをより複雑にして多くの種の共存に貢献しているかもしれない。
急峻な山地では大雨が降ると山が崩れて渓流で土石流が発生する。山が崩れるのは人間が森林を伐採することと関係することもある。研究では森林施業が行われている地域で、異なる林齢の人工林をながれる多数の渓流を対象に、過去の土石流の発生の歴史、底生動物相を調べた。伐採・植栽から10-30年の林をながれる渓流では、過去10年以内に土石流が発生していて、土石流の発生はないか古くに発生している0-10年と40年以降の林をながれる渓流とでは底生動物相や流下有機物の質が大きく異なることが分かった。特にヨコエビは、渓流によっているいないがはっきりと分かれていて、土石流を受けた10-30年の林の渓流にはまったく見られなかった。急峻な山地において土石流発生は渓流生態系を左右する重要な攪乱であることが示された。
日本の多くの河川において建設されたダムは上流から下流への土砂の移動を妨げている。上流から土砂がこなくなった河川では、土砂によって作りだされる瀬や淵といった河床地形構造がやがてなくなり、人工水路のような単調なながれとなり、その結果水生生物相や物質循環が変わる。最近、ダムの下流に土砂を戻すという試みがいくつかの河川で取り組まれているが、河川生態系を戻すのに必要な土砂量というのは分かっていない。多様な生物生息場を提供する河床地形、物質循環において重要な役割を果たしている場や河床地形を特定し、その河床地形を生み出すのに必要な土砂量を数値として出すことを目標とする。
これまでの研究で土石流は渓流生態系を左右する重要な攪乱であることが示された。土石流についてはこれまで多大な人的被害のみが強調され、生態系に対するはたらきはあまりよく研究されてこなかった。土石流は攪乱として、1)河床地形構造を大きく変える働き、2)生物群集を遷移の初期段階に戻すはたらきを持っていると考えられる。土石流発生からの経過年数によって河床地形構造や生物群集がどのように変化するかを、土石流の規模にも注目し、明らかにし、渓流生態系に対する土石流の果たす役割を考える。