共同研究活動状況
External Fund Research Project Activity
- 科学研究費基盤研究(A)(2)
「流域生態系の保全・復元に向けた河川階層モデルの開発
〜土砂動態・河川形態・生態系機能の連繋解明〜」(H15-H17)
(代表:池淵周一、センター内の分担者:小尻利治、竹門康弘、城戸由能)
流域生態系の変化を予測するためには、流域生態系の階層構造の把握とそれぞれの維持機構解明が不可欠である。その目的達成のため、平成16年度には以下の5項目の研究を共同で進めた。 1)河川の階層構造概念を整理し,淀川水系等の数河川について流域区分,セグメント類型,河川地形類型を検討した。賀茂川の河床間隙水域を含む砂礫堆スケールの環境構造を明らかにした。淀川流域を対象としてダム操作を陽に考慮した広域分布型流出予測システムを開発した 2)土砂動態と河川形態の対応関係に関する研究」: 紀ノ川の河道に堆積する土砂量を電気探査,音波探査,写真測量により推定し河川形態の対応を調べた。黒部川のダム排砂および天竜川小渋ダムの密度流排出に関する現地調査を実施し,SS濃度変化などの土砂動態に対するダム貯水池の影響について考察した。黒部川のダム排砂時に3Dレーザスキャナを用いて貯水池内堆積土砂の侵食過程を調査した。 3)「階層構造と生息場所機能の対応関係」: 魚類や水生昆虫の産卵場所条件として,河床勾配・流速・フルード数・河床材の透水係数などの要因を通じて,瀬-淵スケールの分布が決まることが分かった。この対応関係から,流域スケールないし流程スケールにおいて土砂供給量が変化した場合の,魚類や水生昆虫の繁殖成功度を予測した。 4)「階層構造と物質循環機能の対応関係」: 東北と関西の17河川で付着生物の成長律速要因を野外バイオアッセイ法により分析した。河床の付着生物量は栄養塩濃度よりも有機物供給量,流速,水温に依存することや,有機物負荷によって付着基質を巡る競争や被陰効果などにより付着藻類の現存量が減少させることが分かった。貯水ダムのフラッシュ放流に伴う流下粒状有機物の組成を分析した結果,砂州地形の発達した自然河道域では,河道内や砂州の水辺で生産された有機物の割合が高く,物質循環の輪廻単位距離が短いと予測された。 5)「流域生態系機能のための適正な土砂供給量の推定」: 土砂供給がある自然河道と建設年代の異なる貯水ダム下流域において,河床微地形と生物群集構造の詳細な比較調査を行った。阿武隈川三春ダムおよび九頭竜川真名川ダムにおける土砂供給を組み合わせたフラッシュ放流試験に関して現地調査を実施し,流砂環境の回復による河床礫上の付着藻類の剥離更新促進などの河川環境改善効果を示した。
- 科学研究費基盤研究(B)(2)
「次世代降雨レーダーのメソ数値予報モデルへのデータ同化と降雨・流出予測の高精度化」(H16-H18)
(代表:中北英一、センター内の分担者:田中賢治)
降雨の概念モデルをベースにした降雨予測モデルを,3次元ドップラーレーダー情報のエコー強度情報ならびにドップラー速度情報が4次元同化できるように発展させた.また,2004年の梅雨期に、雲解像モデルCReSSを用いて、沖縄・東シナ海域の毎日の予報実験を行なった。これにより梅雨期に発生する様々な降水システムをシミュレーションし、このモデルがどの程度正確に降水システムを再現できるかを調べた。今後は,開発した同化手法とCReSSとの結合を図ってゆく予定である.
一方,新世代レーダーであるCOBRA の利用に関しては,データベースの整備をはかるとともに,二編波観測情報を用いた降水粒子の識別解析をスタートし,問題点を整理した.また,COBRAを用いて観測された台風T0310のZHHおよびZDRデータを3次元動画に可視化した上で,台風内部に発生している降水セルの発達過程および消滅過程に注目して解析を行い,内部降水セルの結合に伴う降水粒子の増大メカニズムについての仮説を立てることができた.水文モデルへの応用に関しては,表層の微細な起伏による流れや土中への浸透など、雨水挙動の物理過程を詳細に考慮した雨水流動モデルを構築した。具体的には、平面二次元地表流モデルと鉛直一次元飽和不飽和地中流モデルを結合するで、地表層付近の雨水流動を詳細に再現するモデルを開発した.
- 科学研究費基盤研究(B)(1)
「積雪期を含めた水・熱・物質循環過程の総合化−琵琶湖プロジェクト第4ステージ−」(H16-H18)
(代表:田中賢治、センター内の分担者:中北英一)
1992年以来琵琶湖北東部の高時川流域で進められてきた水文・気象合同観測プロジェクトである「琵琶湖プロジェクト」がこれまであまり対象にしてこなかった冬季の水文過程に取りかかる上で、琵琶湖淀川水系の源流域に位置する余呉高原スキー場を観測サイトとして選定し、「暖候帯の多雪地帯」における積雪・融雪過程の実態把握とその知見を活かした陸面過程モデルの改良を目的として、積雪深や関連する微気象要素の連続測定を開始した。観測項目は積雪深、気温・湿度、風向・風速、日射量、土壌水分量プロファイル、積雪温度プロファイル、地中温度プロファイルである。
陸面過程モデルSiBUCに、地表面温度の予報における強制復元モデルの枠組みを維持しつつ(土壌モデルを多層化せずに)、土壌水分の凍結・融解の効果を導入した。現在はGAME-SiberiaのTiksiサイトのデータを利用したモデル開発の段階であるが、今後、本プロジェクトはじめ、様々な研究プロジェクトにおいて取得されたデータをもとに、冬季の水文過程の検証を進め、モデルの汎用性を高めていく。
大気陸面結合モデルARPS-SiBUCを用いて、熱収支特性や地表面粗度を変えた感度実験を通して、地表面過程が夏季の対流性降水に与える影響を詳細に検討した結果、日本の夏季のように周囲から豊富な水蒸気が供給される条件においては、陸面からの加熱(蒸発散の減少)がむしろ降水の強化につながる場合があることが示された。このような影響は一般風と局地風の微妙なバランスの結果もたらされるものであるが、特に陸面過程が軽視されがちな降水の短期予報においても、地表面の加熱や蒸発散を適切に表現できるモデルを導入する必要性があることを意味している。
- 科学研究費基盤研究(B)(1)
「十年にわたる全球陸面エネルギー水収支データセットの構築とその検証解析」(H16-H17)
(代表:沖大幹(東京大学生産技術研究所)、センター内の分担者:田中賢治)
地球大気環境の変動に大きく影響を与える陸面過程についてより深く知るために,全球かつ10年間の水とエネルギーの収支を複数の陸面植生水文数値モデル(LSM)と大気外力を用いて推定する.具体的な手法は以下のとおり.
1. 最新の降水量や放射量データを利用して全球水エネルギー収支を1986 年〜1995 年の10 年間に渡って、全陸地1 度グリッド日単位の分解能で精度良く推定する。世界で広く利用されている指標的なLSM だけではなく、日本の若手によって独自に開発されたLSM や日本で改良されたLSM もそれぞれの開発者・開発グループが参加して、その性能を国際的な場で競う。
2. 複数のLSM、複数の外力データ、複数のモデルパラメータセットの結果を総合的に解析し、最適なアンサンブル手法を提案して、現時点でもっとも確からしく精度の高い全球水エネルギー収支データセットを構築し、河川流量、大気水蒸気収束量などの独立情報を利用して検証する。
3. 外力データのデータベース化と配布、モデル出力値の収集と品質管理、再配布、数値実験間の相互比較と相関解析等を統合的に取り扱う情報基盤システムを構築し、国際プロジェクトにおけるデータセンターの役割を果たし、研究成果ならびに得られたデータセットを広く公表する。
GSWP-2 (2nd Global Soil Wetness Project)はGEWEX (Global Energy and Water Cycle Experiment), GLASS (Global Land Atmosphere System Study)のもと実施されているモデル間相互比較プロジェクト(Model Inter-comparison Project)の1つであり、米国COLA (Center for Ocean-Land-Atmosphere Studies)のPaul Dirmeyer博士、東京大学生産技術研究所の沖大幹助教授をco-chairとして進められている。世界中からおよそ20もの陸面過程モデルが参加し、1986年から1995年の10年分について、水収支各項、エネルギー収支各項、各種状態量等のデータセットが全球1度グリッド日単位で作成される。GSWP-2のデータセットを用いて、陸面過程モデルSiBUCを初めて全球規模で適用した。田中はSiBUCで相互比較実験に参加するのみでなく、気象強制力やパラメータデータの精度検証やデータ改良等に積極的に貢献している。GSWP-2のベースライン実験や感度実験(共通の計算)を実施するとともに、SiBUC 独自の試みとして、NDVIの時系列解析から全球作物分類図並びに全球農事暦データセットを作成し,全球規模で灌漑を考慮に入れたモデル計算を実施し、灌漑の影響を評価した。これらのデータセットは、気候値ではなく、年々変動を反映した陸面境界条件を提供することになるので、気候変動および年々変動、異常気象のメカニズムおよびそれらに陸面が果たす役割を解明するための基礎的なデータとなる。
GSWP-2のホームページ(http://grads.iges.org/gswp/)
- 科学研究費基盤研究(C)
「地球規模水循環システム予測値のスケールダウンと予測の不確実性低減手法の開発」(H16-H18)
(代表:葛葉泰久(三重大学生物資源学部)、センター内の分担者:友杉邦雄)
1. GCMを用いて求めた地球規模水循環システムの諸変量から、流域規模水循環システムの物理量を予測するためにダウンスケール手法を用いた予測を行う。ここで、地球規模水循環システムに関しては、すでに確立している気候変動モデルを用いて、温暖化等の将来の気候変動シナリオに基づいた予測をする。
2. 既存の統計資料のほか独自に小流域で観測した気象・水文データを用い、スケーリング・確率統計的手法・物理モデルなどの手法を用いて、観測値の少ない流域内の気象・水文変量(降水量・河川流量など)を予測する手法を確立する。
3. 上記の変量の不確実性の構造を明らかにし、予測値の信頼精度を、決定論的に導く手法を確立するとともに、不確実性を低減するための手法を開発する。
- 環境省環境技術開発等推進事業
「深泥池をモデルとした水域・集水域の生態系管理手法に関する研究」(H16-H18)
(サブテーマ代表 : 竹門康弘、センター内の分担者:城戸由能、田中賢治)
環境省環境技術開発等推進事業「地域生態系の保全・再生に関する合意形成とそれを支えるモニタリング技術の開発」(代表者:矢原徹一(九州大学教授))の一環として平成16年度から開始した。本研究は、深泥池を閉鎖的な陸水域生態系のモデルとして、外来種の駆除や富栄養化により繁茂した水生植物の除去といった直接的な生物群集管理の方法論と集水域の水文過程や栄養塩負荷を改善するための水循環経路の改良や森林管理といった間接的な生態系管理の方法論の双方を検討するものである。このため2004年度には,1)航空写真撮影と植生景観調査による植生の変遷過程の研究、2)オオクチバスとブルーギルを対象とした外来魚除去効果の研究、3)プランクトンや底生動物群集のモニタリング調査、4)マコモやオオカナダモの刈取り調査、5)池と集水域の水収支推定のための各種気象・水文観測、6)池内の水質調査、7)浮き島内のコアサンプル採取と堆積物中の花粉分析など実施した。
- CREST「水の循環系モデリングと利用システム」
「社会変動と水循環の相互作用評価モデルの構築」(H13-H17)
(代表 : 寶 馨(京都大学防災研究所)、センター内の分担者:小尻利治、田中賢治)
急激な人口増と社会の変動が予測されるアジア域を対象に、従来個別に開発されてきた水循環解析モデルの共通化と精度向上を行い、水循環と社会変動との相互作用を定量化することにより、持続可能な水政策の立案に資することを目的としている。
(A)アジアモンスーン地域を対象とした水循環モデルの構築(水循環モデルグループ):わが国およびアジア諸国の社会変動が河川流域の水循環、国際的な水資源循環・収支に及ぼす影響の予測モデルを構築する。
(B)自然の水文循環と社会変動の相互作用を考慮した水循環モデルの構築(相互作用グループ):アジアの淡水資源の利用可能性とリスクを定量的に評価・予測する。
(C)国際的水循環・水収支の自然・社会・経済シナリオ分析と貢献戦略(国際水連関グループ):我が国の水(食糧、産業)政策、国際貢献戦略の将来像を明らかにする。
研究概要(小尻)
世界の水資源分布の変化が、社会活動(農業生産、経済活動、人口移動等)に対してどのような影響を及ぼし、逆にそれらの変化が水資源需要にどう影響してくるかを、システムダイナミックス(System Dynamics)手法を用いてシミュレーションしようとするものである。対象領域は世界であるが、各大陸(アジア、ヨーロッパ、アフリカ、オーストラリア、北アメリカ、南アメリカ)に一つの社会活動のセクターを構築し、それらのセクターを、人口・資源・生産物等の物質移動(輸出入)という形でつなぎ合わせることにより、世界モデルを完成させる。
研究概要(田中)
流域水循環を適切にモデル化する上で農業灌漑の効果は、極めて大きいと考えられる。この灌漑の効果を考慮し、また灌漑水量を推定するために、水田や畑作地における水循環プロセスを人為的な灌漑作業を導入した形で表現する地表面過程モデルを開発している。このモデルを用いることにより、淮河における灌漑水量、および灌漑の水循環に及ぼす影響を評価するとともに、このモデルを用いた全球の灌漑水量推定を開始している。
- CREST「水の循環系モデリングと利用システム」
「ダム下流域における底生生物群集構造の変化」(H15-H19)
(代表:永田俊(京都大学生態系研究センター)、センター内の分担者:竹門康弘)
貯水ダムの下流域では,土砂供給の遮断,水質の富栄養化,濁水の長期化などが生じる結果,下流域の生物群集や景観に大きな影響を及ぼすことが懸念されている.このため,貯水ダムの新規建設計画に際しては,ダムサイトや貯水池への環境影響のみならず広く上下流域への環境影響を評価し,建設によるメリットとデメリットとを客観的に検討することが求められる.しかし,貯水ダムの下流域で生じる河川環境や生物群集の変化については,これまで十分な調査研究が行われてこなかった,とくに,貯水ダム建設時からの時間的変化や,ダム堤体からの流下距離による空間的変化を明らかにした事例はきわめて少なかった.このため,下流域で起きる生態系変化を評価するための調査項目や方法論すら確立していなかったといってよい.その背景には,多くの調査費がダム建設前に投入され,一旦ダムの運用が始まってしまうと,調査が打ち切られてしまう従来の環境アセスメントの仕組みにも原因があったと考えられる.こうした現状を改善するためには,ダム建設計画を評価するための目先の目的の調査から離れて,過去に建設された様々なタイプのダム下流域や上流にダムのない河川流程を対象にして,基礎的な比較研究を行うことが必要である.そこで,我々の研究室では,近畿圏各地の河川や貯水ダム下流において底質環境と底生動物群集の比較研究を行った.
竹門分担課題のH16年度研究概要abstract(5ページpdf file)
- RR2002「人、自然、地球共生プロジェクト」
課題5「広域水循環予測及び対策技術の高度化」、「c. 領域水循環統合モデルの開発と
それを用いた海洋性砂漠の水文・水循環とその変動の解明と予測に関する研究」(H14-H18)
(代表 : 植田洋匡(京都大学防災研究所)、センター内の分担者:小尻利治、浜口俊雄)
本プロジェクトでは,全球レベルの水循環システムを検討する前段階として,従来の湿潤域の水循環モデルに当てはまらない西アジア地域の広大な乾燥地帯を対象として水循環システムを解明し,そうした地域での新たな水資源の開発を目指すという課題に取り組んでいる.そこで課題の1つに挙げられている内容が,広域の乾燥地帯における表面流および地下水流の挙動を解明することであり,当センターは現在この解明作業に従事している.まずはモデルケースにサウジアラビア西岸域のジェッダ周辺に言及している.このプロジェクトには新たな水資源開発のために,砂漠地帯に植林を行うことで蒸散量を増加させ,降雨量の増加を図ろうという構想が進行中である.例えば.植林の影響から,降雨量はどの程度増加するのか,降雨増加によって取水可能量はどう変化するのか,また,植林によって将来的に持続可能な取水量が確保できるかなどの検討項目があり,その構想が有効か否かを判断する段階である.当センターでは,乾燥地帯における広域表面流・地下水流を有機的に結合したモデルの開発に着手し,不飽和流モデルを簡便化したプロトタイプが提案できた.これは,浸透能や蒸発散能が高く降雨や河川もほぼないような悪条件下で大型計算要素を用いても計算が安定し,かつ,広大な地域を対象とした3次元計算の労力を抑えられるモデルとなっていて有用性に富んでいることが示せている.将来的に表流水・地下水の有機的運用を目指し,プロトタイプを随時改善するとともに3次元分布型流出モデルへと発展させて,植林の影響を反映したシミュレーションを行う目的をもって鋭意努力している.
- 総合地球環境学研究所プロジェクト
「乾燥地域の農業生産システムに及ぼす地球温暖化の影響(ICCAP)」(H13-H18)
(代表:渡辺紹裕(総合地球環境学研究所)、センター内の分担者:小尻利治、田中賢治)
地球温暖化や気候変化の影響を、農地での作物生育だけでなく、地域的な農業生産システムへの影響の様相や機構、程度をとらえる試みを通して、「自然と人間の関係の仕組みとしての農業」をより明確に理解し、気候変化に対する課題と対策を明らかにすることを試みる。トルコ地中海地域のセイハン川流域では、山間部には天水小麦地帯が広がり、海岸平野部は冬の山岳地帯の雨や雪を貯水して夏に利用する広大な灌漑農業地帯で、主にトウモロコシや綿花、果樹などが栽培されている。セイハン川流域における農業生産システムの基本の把握と、将来の気候変化のシナリオを基にして、地域の水文・水資源、灌漑排水システム、自然植生、作物生育、農家・農民の行動を含む営農・作付け体系や広域的な食料生産・流通などに及ぼす影響を明らかにする。
水文グループとしては、乾燥地帯での流出モデルの作成と地球温暖化による流量特性の変化を解析する。気候グループによる温暖化シミュレーション、農業・経済グループによる農業生産過程の応答を加えた水資源動態モデルを構成する。
報告書(6ページpdf file)
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