1。表面流・地下水流連成モデル
分布型流出モデルは、対象流域内の不均一な流出特性分布を空間的に表現することで、流域内の流出の時空間的変動を比較的高精度に再現計算できるシステムである。代表的なものに、単純な網状格子を用いて水平分割し、地中を水文特性に合わせて複数の層に分割した小尻らのHydro-BEAMがある。このモデルは現時点でも秀逸であるが、まだいくつか問題があり、議論の余地もある。本研究ではこの点を改善すべく、地表水と地下水の結合モデルおよび工夫した解析方法を提案することを目的とする。この解析を難しくしているのが地表水と地下水の流速のオーダー的差異や不飽和流の挙動から生じる水平・鉛直メッシュサイズ整合にある。精度良く数値計算を行うためには、地下水流速に合わせてメッシュを生成せねばならないが広域には細かすぎる。また不飽和流も考えた3次元的検討では、水平方向に対する鉛直方向のメッシュサイズ比が大きくなり過ぎて数値解が求まりにくくなる。
2. 広域を対象とした場合の打開策
広域解析に上述の結合モデルを用いる場合、水平メッシュサイズや、鉛直方向とのサイズ比は更に大きくなって、数値解析にはますます悪条件となる。これを打破する手段としては水平メッシュサイズと鉛直メッシュサイズが互いに依存せずに解析できる単純な近似手法が適当である。不飽和流を簡略化することで、表面流・地下水流が各々のモデルのみで解析できる近似計算モデルを考えればよい。
3. 不飽和浸透流モデルと簡便化
従来の不飽和浸透流モデルは、主に負圧ψと体積含水率θの関係を関数で表した土壌水分特性曲線に対して計測データを基に既定の関数式形に当てはめているか、計測データを折線状に結合させた形で使っているかのいずれかである。これらはいずれも同曲線上から対応値を逐次算出せねばならないために不飽和浸透域の計算負荷を増大させてしまう傾向にある。Dagan and Breslerは鉛直一次元不飽和浸透流の簡便化モデルを提案した。これは重力排水完了後の不飽和帯の水分鉛直プロファイルを単純なパターンで表したもので、各時刻毎に浸潤層(θが圃場容水量以上)のθが均一に一定値θc(t)で満たされ、不飽和帯の浸潤層下層はθが圃場容水量のみに設定されるプロファイルの等価モデルである。これよりRichards式よりも容易に不飽和浸透流の挙動が表現できる。ただし、同モデルは、不飽和帯の鉛直水分移動量や滞留量が地表流量や地下水流量に比べて、あまり大きい量となっていないことが前提である。また、乾燥地を対象とする場合、不飽和浸透流は鉛直流動が水平流動(水力学的分散や拡散現象も含む)よりも卓越して優っているため、Dagan and Breslerモデルが使えて、本来連成的な表面流と地下水流の挙動が上方から順に個別計算してよい非連成解析になる。
4. 結論
以上より、広大な乾燥地を対象とする場合、不飽和流モデルにDagan and Breslerモデルを用いることで表面流解析と地下水流解析がそれぞれ高精度で安定した計算をできるようになり、各流速の差異から来る水平・鉛直メッシュサイズや時間ステップの決定問題などが全て考えずに扱えることになる。本手法は広大な乾燥地に対して簡便的ながら非常に有効なアプローチであると言える。
1992年以来琵琶湖北東部の高時川流域で進められてきた水文・気象合同観測プロジェクトである「琵琶湖プロジェクト」がこれまであまり対象にしてこなかった冬季の水文過程に取りかかる上で、琵琶湖淀川水系の源流域に位置する余呉高原スキー場を観測サイトとして選定し、「暖候帯の多雪地帯」における積雪・融雪過程の実態把握とその知見を活かした陸面過程モデルの改良を目的として、積雪深や関連する微気象要素の連続測定を開始した。観測項目は積雪深、気温・湿度、風向・風速、日射量、土壌水分量プロファイル、積雪温度プロファイル、地中温度プロファイルである。
陸面過程モデルSiBUCに、地表面温度の予報における強制復元モデルの枠組みを維持しつつ(土壌モデルを多層化せずに)、土壌水分の凍結・融解の効果を導入した。現在はGAME-SiberiaのTiksiサイトのデータを利用したモデル開発の段階であるが、今後、本プロジェクトはじめ、様々な研究プロジェクトにおいて取得されたデータをもとに、冬季の水文過程の検証を進め、モデルの汎用性を高めていく。
大気陸面結合モデルARPS-SiBUCを用いて、熱収支特性や地表面粗度を変えた感度実験を通して、地表面過程が夏季の対流性降水に与える影響を詳細に検討した結果、日本の夏季のように周囲から豊富な水蒸気が供給される条件においては、陸面からの加熱(蒸発散の減少)がむしろ降水の強化につながる場合があることが示された。このような影響は一般風と局地風の微妙なバランスの結果もたらされるものであるが、特に陸面過程が軽視されがちな降水の短期予報においても、地表面の加熱や蒸発散を適切に表現できるモデルを導入する必要性があることを意味している。