「貯水ダム下流の環境変化と底生動物群集の様式」 --- 波多野圭亮・竹門康弘・池淵周一
ダム下流域では土砂供給が制限される結果、底質が粗粒化し固化する現象(アーマーコート化)や、底生動物の種多様性の減少する例が報告されている。本研究は、近畿圏における16のダム直下において、ダムによる生息環境と底生動物群集の特性を示し、さらに、生息環境の物理構造や水質環境を介した底生動物群集への影響過程と、餌資源環境を介した底生動物群集への影響過程を考察した。ダム下流の流程と同規模で上流にダムのない対照流程を比較した結果、河床攪乱と砂礫供給の減少とダム湖のプランクトン供給が付着層の発達を促すことによってヒラタカゲロウなどの滑行型のみならず、シマトビケラなどの造網型の生息環境をも消失させることがわかった。また、支川の流入に伴う生息環境と底生動物群集の流程変化を分析した結果、ダム直下から数百メートルの距離で底生動物の群集構造が劇的に変化していることがわかった。
防災年報発表概要(1ページpdf file)
「AMeDASデータを用いた降雨分布特性の統計解析」
本研究では日本を対象領域にAMeDASデータを用いて過去の降雨分布特性を統計的に解析することで将来においても豊水や渇水を論じる上で有用となる指標の検討を行う。様々な指標に関して地点ごとの平均値と標準偏差を求め、平均値からの差を標準偏差で割って規準化を行い、さらにそれらを積算してスコアを算出する。豊水指標として、時間30mm雨量を越える頻度、1日雨量100mmを越える頻度、年最大1日雨量、一雨雨量を検討した結果、時間30mm雨量を越える頻度については豊水年の指標としては適切でなく、1日雨量100mmを越える頻度については空間分布としての特徴を見るなら一指標になると考えられられた。300mm以上の一雨雨量が発生する頻度のスコアは年積算値のスコアとよく対応したが、最大一雨雨量はあまり対応しなかった。これらの一雨雨量に関する指標は豊水指標としてだけではなく豪雨などの災害を見るのにも有効であると考えられる。一方渇水指標として、連続無降雨日数、前30日雨量を検討した結果、前30日雨量の最大値という指標は他の指標にはない渇水・豊水の両方の指標になり得ることが示唆された。
「分布型流出モデル(Hydro-BEAM)」
Most of the existing distributed rainfall-runoff models simplify the interaction between the atmosphere and the groundwater processes. Nevertheless the correct representation of this interaction is very important in water resources management. The time scale of interaction between surface runoff and atmosphere is ranging from few minuets to few hours. The time scale of interaction between surface runoff and groundwater also has the range from few hours to few days (depending on the hydrological characteristics of the unsaturated and saturated layers). Because these scales are not the same, the hydrological modeling of the water cycle related processes is not straightforward. For lumped-typed runoff models, it is sufficient to simplify the interaction within large time scales. This creates the problem that large time scales in hydrological modeling do not include many of the physical processes that occur in small time scales.
The objective of this research has been to make an integrated hydrological model through the simulation of the hydrological interactions in the surface, ground and atmosphere. This resulted in a new distributed runoff model for watershed. For spatial interactions, it appeared that the existing distributed runoff models outputs could be improved considerably through considering atmosphere and ground interactions. The temporal interactions add much to the reliability and accuracy of the integrated hydrological model. The methodology is based on the dynamic linking among the transient hydrological models at different time scales, which implies that the quantity and quality of the distributed runoff at every time step is affected by the impact of atmosphere and groundwater interactions. Static linking of hydrological sub-models is normally used in distributed rainfall-runoff models. It is shown that the assumption of steady conditions for groundwater model during small time scales will not affect the accuracy of the model outputs. This is valid for many geological formations in the world. Using integrated hydrological modeling with dynamic linking between different sub-hydrological models is useful for water resources management. The developed integrated hydrological model has been applied for the Yasu River basin, Japan, and for the Seyhan River basin, Turkey. The performance of this model has been also compared with the available measured data.
「World Water Dynamics」
Currently, many countries experience water resources related problems such as insufficient supply of fresh water and deteriorating water quality. The situation is aggravated by rapid population growth, massive industrial development and urbanization which lead to a growing thirst for fresh water supply. There is an urgent need to understand and project the development of the human society under the influences of limited water resources, so as to plan and initiate policies to alleviate the worsening situation. This research models the development trends of the various regions of the world from 1960 to 2100, paying special emphasis on the effects and conditions of the world water resources. Unlike many projections of water usage which rely heavily on exogenous data inputs, the model is designed to take into account the dynamical feedback interactions between socio-economical activities and water resources in a closed system. The model provides a detailed picture of the world that can be used as a basis for scenario and policy planning to attain a more sustainable development.
「人工知能を利用した水資源管理」
近年、世界各地から異常気象の発生が頻繁に報告されている。2001年の中国の旱魃や、2002年の中・東欧地域での洪水災害などは記憶に新しい。わが国でも、1994年の大渇水や2000年の愛知での集中豪雨といった、観測史上稀に見る災害が発生している。渇水問題関係では、大都市において都市圏の膨張と人口の都市圏集中に伴う業務・サービス活動の拡大などにより、都市用水の需要増加が著しい。
このような状況下では、渇水の長期化、渇水の影響圏の広域化は避けられず、都市部における渇水問題が年々深刻さを増しつつある。また、洪水では、近年における産業・経済の発展により、とりわけ河川の下流域への人口・資産の集中が著しく、これらの河川がいったん破堤氾濫した場合における被害は、破局的なものになると想像される。そのため、ダム貯水池の果たす役割は重要であり、一層効率的な操作ルールの確立が求められている。特に、洪水時もしくは渇水時には、操作を誤ると社会的影響が大きく、このような緊急または非常事態の中での貯水池操作における的確な意思決定が、しばしば非常に困難であることは言うまでもない。
一方で、二酸化炭素などの温暖化効果ガスの増加により、地球全体が急速な昇温傾向にある。地球規模での気温上昇が前述のような災害と何らかの因果関係を持っているという確固たる証明は未だなされていないが、少なくとも、温暖化を含め、地球全体の気候システムが変わりつつあるということは間違いなさそうである。
こうした気候システムの変化について、近年様々な研究が盛んに行われている。しかし、いずれも全球・半球といったスケールの大きなものを対象としており、実際に水管理が行われる流域レベルでの影響は解明されていない。流域での水管理において,現在もっとも威力を発揮しているのがダム貯水池であるが、そのダム貯水池の管理についても、今後どのように行っていけば良いのかという問いに対する答えは、十分に用意されていないのが現状である。
今後より良い防災対策を行っていくためには、気候システムの変化が各流域に及ぼす影響を探り、流況の予測精度の向上を図ることはもちろん有効である。しかし同時に、より長期的な視野に立った効率的な貯水池の操作の実施や、変化する気候システムに対応できるよう、貯水池操作そのものを変化させていく手法の確立も必要となってくるはずである。
本研究では、まず、非常状態における貯水池操作担当者の意思決定を支援するための貯水池操作支援システム(意思決定支援システム、DSS)に関する研究分野において、従来別々に行われてきた渇水制御と洪水制御に関する研究を統一し、一年を通した連続的な、実管理に適した操作手順を提案する。すなわち、利水操作では、従来の長期予報にファジィベイズの法則を用いて修正した流況予測と、ファジィパターン分類による流況予測を統合させ、ファジィ推論によって節水率、放流量を決定する。洪水操作では、気象庁作成の領域数値予報モデル(Regional Spectrum Model, RSM)からの情報を用い、ファジィ。ニューラルネットワークによって降雨量、流入量を予測し、放流量を決定する。次に、気候システムの変化を把握しその変化に支援システムを順応させていくために、気象情報や操作ルールなどの支援システムが持つ知識を変化させていく過程の導入を試みる。さらに、気候システムが変化し、予測時における不確実性の増大や予測精度の低下が現れた場合にも対応するため、不確実性や予測精度を考慮した予測・操作手法を提案する。最後に、気候システムの変化による予測不確実性の増大を軽減するために、日本での降水と関係が深い地球規模気象情報を用いた予測手法を提案し、予測精度の向上を図るものとする。
概念モデルを用いた短時間降雨予測モデルによるレーダーエコー、ドップラーレーダー情報の同化手法の開発を行いモデルと矛盾しないよりきめ細かな情報を予測できる手法となった。全国合成レーダー情報を用いた台風性降雨の短時間降雨予測手法を開発し、日本列島を北上しながら回転する台風性降雨域と北方に停滞する前線から移流する降雨の両方を同時に予測できるようになった。レーダー及び気象数値予報情報を用いた福井豪雨の解析を行い、豪雨の発生域を決めたのは地形の影響ではないこと、しかし、一旦発生した雨域は上陸後地形の影響を受けて急激に発達して足羽川流域に豪雨がもたらされたことを示した。
一方では、流域地形量をベースとした模擬流域発生手法の開発と分布型降雨情報の有効性の解析、時間・空間スケールを考慮した異常降雨出現特性のグローバル解析を行った。グローバル解析においては、異常降雨の発生領域の90年代の増加はエルニーニョの影響を受けていること、全球平均降雨量は90年代が特に多いということはないことなどを明らかにした。
「地球規模水循環システム予測値のスケールダウンと予測の不確実性低減手法の開発」
(共同研究活動状況に記載)
友杉の分担課題:水資源モデル構築と将来予測
(水資源・水災害予測モデルを構築し、流域規模水循環変量の予測値(別途の成果)を用いて、
水収支計算に基づく水需給バランスに関する水資源システムの予測を行った)
「乾燥・半乾燥地域における総合的水資源計画」
(諸外国における活動状況に記載)
友杉の分担課題:シナイ半島のワジにおける鉄砲水の予測
(ワジの河道分布地形の計量地形学的解析、降水量の時空間分布特性の解析、及び流出予測法の開発を行った)
「深泥池における植生分布の変遷過程とその水文循環への関わり」
航空写真とGPSを用いた現地調査とを併用して、深泥池の浮き島や水生植物群落の時代変遷を分析した。まず、植生をジュンサイ、ミツガシワ、シュレンケ、ヴィルテ+樹冠、マコモ+ヨシ+セイタカヨシの6類型に分類し、航空写真からそれぞれの面積を測定した。過去の航空写真データについても同様の測定をすることによって、深泥池における植生の変遷過程を調べたところ、下図のように変遷していることが分かった。池全体の50%を占めていた開水面(浮葉植物のジュンサイ域を含む)が、60年間で20%に減少し、その分ヨシとマコモの面積が増大していた。これらの植生変化が深泥池の水熱収支に及ぼす影響を評価するために、2005年4月現在、各種気象水文観測装置を深泥池浮島の西端、西山の斜面、開水面、排水路に設置し、気温、水温、湿度、降水量、日射量、放射温度、池の水位、排水路流量などの項目について観測を実施中している(参照→田中賢治個人活動状況)。
「流下粒状有機物の起源と動態に関する研究」
木津川高山ダム下流と宇治川天瀬ダム下流の三川合流までの流程にそれぞれ9地点と6地点の調査地を設け、流下粒状有機物(SPOM: Suspended Particulate Organic Matter)の流下動態を調査した。その結果、木津川ではダム直下では水生植物起源のPOMが多いもののすぐに陸上起源のものが増え、さらに河原の発達する流程では水際植物や河原植物起源のPOMが増加することがわかった。いっぽう、宇治川では全川に渡り琵琶湖で生産されたと考えられる水生植物起源のPOMが卓越していた。さらに、湖沼起源のプランクトンに着目しその減衰率からPOMの流下距離を推定したところ、木津川では3kmで50%減衰し、10kmで90%減衰するのに対し、宇治川では8-10kmで50%減衰し、26-33kmで90%減衰することがわかった。これらの結果は、木津川では流下有機物が早く入れ替わることを示している。
報告書(6ページpdf file)
「柿田川における底生動物群集の構造と特徴」
柿田川の流程にそって生息場所地形の現地調査と底生動物群集の採集調査を行った。地形分析の結果、柿田川の生息場所の特徴は、平瀬が卓越し砂底と水生植物の被度が大きいことがわかった。また、底生動物群集については、石礫底に生息する底生動物の種の多様性や個体数密度が非常に低いことがわかった。いっぽう、網を張って流下有機物をろ過する種が少なかったことは、湧水が粒状の有機物を含まないことに起因すると考えられた。また、水生植物体上に生息する種が多く、これらは藻類や水生植物を食べていることが分かった。底生動物の胃内容分析の結果から、柿田川の底生動物群集の食物網が全体的に藻類と水生植物に大きく依存していると考えられた。
報告書(19ページpdf file)
「都市型盆地水系における水文・環境観測と水・物質循環の解明〜京都盆地を対象として」
河川流域における水・物質循環を水系一環としてとらえ、その経年的な変化や将来予測を行うことを目的とした観測調査を継続的に行ってきた。今年度は、合流式と分流式の混在する下水道排水区からの雨水・汚濁物質流出および河川水質観測を実施した。降雨初期の河川水質の濃度上昇は、主に分流式区域からの表面汚濁負荷流出であり、その後、降雨強度が高まり合流式区域からの越流による河川水質の濃度上昇が確認された。総雨量11.5mmの降雨でも合流式区域からの越流が発生しており、年間を通して、かなりの頻度で越流水が河川に流入し、河川水質へ影響を及ぼしていることが予測された。また、表面堆積汚濁負荷の供給源として、大気からの降下物調査を実施し、近接主要道路の交通量によって、屋根面等への降下物量が増大することを明らかにした。
「都市型盆地水系における水・物質循環システムの解明」
当研究室では、都市型盆地水系において、都市化に伴う流出形態の変化、地下空間利用の変化に伴う地下水流向・流量の変動、都市化に伴う雨水流出による流出物質の変化などを中心に、水・物質循環システムの解明とモデル構築を目指している。その結果から、将来的に災害時の緊急水源としての地下水の利用可能性などを解析することで、都市域の水・物質循環を適正に保全し、持続可能な水利用のための方策を検討する。研究対象として京都盆地を考え、現在資料を集めつつ、地表水に関しては考察適地において観測データを収集している。地下水に関しては、ボーリング(1次元)や検層(断面2次元)のデータを使って、3次元化した帯水層モデルを作成している。
「地下ダムによる地下水開発と地下水の利用・保全」
当研究室では、水資源の乏しい地域で更なる地下水を開発し利用するために最適な地下ダムの設計・施工・供用の計画を立案するとともに設計指針を提案している。さらにそこに、塩水侵入や農薬・過剰施肥による地下水質悪化といった環境問題を考慮し、シミュレーションによる推定結果から設計指針に反映させることを目標として研究を進めている。その際のシミュレーション精度を向上させるため、地盤統計学(Geostatistics)による分布推定手法・逆解析(Inverse analysis)によるパラメータ同定手法・情報量統計学によるモデル選択手法を数値解析ツールとして利用し、理論的・客観的判断に基づく再現計算を遂行し、さらに当研究室で開発した物理・統計ハイブリッドモデルによる誤差補完計算を利用することを提案している。
「乾燥地における地表水・地下水の結合した分布型流出モデルの開発」
地表水は透水性の高い帯水層の地下水に比べても流速が数十倍〜数百倍、あるいはそれ以上になることもある。また地表水と地下水の中間に位置する土壌水は不飽和浸透であることから、地下水より小さな流速にしかならない。そうした速度に差異のある現象を結合させて解析する場合、新しいモデル化が必要である。その結果をHydro-BEAMなど既存の分布型流出モデルに適用していくことが統合流域評価モデルの作成には急務である。その際にDEMの活用を視野に入れたモデルのニーズが多いことも留意せねばならない。以上の結合モデルの完成と分布型流出モデルへの適用遂行が目的であるが、将来的には水循環評価が不確かな乾燥地帯へ開発モデルを適用し、地表面の緑化を含めた水資源評価と開発方法の立案を目標にする。
「全球土壌水分分布の推定」 (諸外国における活動状況に記載)
「トルコセイハン川流域における気候変動影響評価」 (諸外国における活動状況に記載)
「中国淮河流域の詳細な水・熱収支の算定(GAME-HUBEX)」
陸面過程モデルSiBUCのオフライン計算により、GAME-HUBEX集中観測期間である1998年5月から8月の4ヶ月間について、中国淮河流域の水・熱収支を10kmメッシュで算定している。淮河流域の大部分が農耕地であること、またグローバルデータセットでは淮河流域の複雑な農地分布を表現できないこと、流域内で多量の灌漑用水が使用されていることなどの理由から、研究の中心課題は、正確な農地分布の作成、作物別の農事暦および灌漑ルールの作成といったモデルパラメータの整備となる。衛星データ(NDVI,NDWI)の時系列解析、農業指導書、農業統計データ、水文データ(ダム放流量、河川流量、灌漑用水量、地下水位)、現地聞き込み調査を駆使して、より現実的な淮河流域の土地利用・水利用が解明された。さらに、メソスケール数値気象モデル(JSM-SiBUC)により、農地灌漑を考慮した形で、HUBEX領域の4次元データ同化を実施し、大気−陸面の各種状態量、フラックスのデータセットが30kmメッシュで作成された。これら詳細なデータセットは梅雨前線に伴う雲・降水システムの形成・発達・維持機構および梅雨前線そのものの振る舞いを解明するための基礎的なデータとなる。GAME-HUBEXとしての最終プロダクツを作成するとともに、HUBEX最終レポートを作成した(現在編集中)。
「JSM-SiBUCによる日本の降雨分布の再現」
地球温暖化、気候変動の影響で日本の水循環はどう変化するのか、予測される変化に対してどう対応すべきかといった問題に取り組む上で、現在の多くの全球モデル(GCM)が描く将来の気候変化では空間解像度が粗すぎるため、地域規模での詳細な情報にダウンスケールすることが求められている。ダウンスケールの手法は主に統計的手法と物理的(力学的)手法に大別されるが、本研究では後者の手法について、どこまで可能であるかを検討する。領域気象モデルとしてJSM-SiBUCを、初期値および境界値として長期再解析データ(JRA-25)を使用し、アメダスデータの解析から最も豊水と判定された1993年と最も渇水であった1994年について、日本の降水分布の再現を行った。今回対象とした2年は降水量が極端に異なる年でもあり、モデルバイアスと統計量(相関係数、RMSE)に明確な季節性を見出すことはできないが、モデルでは概ね7割程度しか降水量を評価できていないと言える。特に1994年の7月の渇水時にモデル降水量はアメダス降水量の3割しかなく、渇水時にはモデルは降水量をさらに過小評価している。このように観測値が存在する過去の再現計算ではモデル出力の「くせ」を知ることができるが、豊水年や渇水年の特徴を踏まえた上での補正関数を決定するためには、より多くのモデル出力結果を蓄積していく必要がある。
(水文・水資源学会2005年研究発表会にて発表予定)
2ページpdfファイル
「短時間降雨予測における地表面加熱の重要性」
本研究では、夏季の対流性降雨の発生に対する地表面加熱や土壌水分状態の重要性を調べることを目的として、2001年8月14日と15日の事例に関して琵琶湖周辺の山岳域を対象に非静力数値気象モデルARPS-SiBUCを用いて6つの数値実験が実行された。LSS変化実験(Case1&Case2)の結果から、陸面条件の詳細な取り扱い、特にサブグリッドスケールでの都市加熱の効果を取り込むことにより、局地循環の発達の再現が改善されることが示された。また、土地利用変化実験(Case3&Case4)の結果は、バックグラウンドの大気場が十分湿っている場合、陸面からの蒸発よりも加熱の方が対流性降雨の発生に対してより重要になることが示唆された。土壌水分変化実験(Case5&Case6)では湿潤気候帯における現実的な土壌水分変動の範囲における土壌水分の差が確かに夏季の対流性降雨の量に影響を与えることが示された。これらの結果は、特に陸面過程が軽視されがちな降水の短期予報においても、地表面の加熱や蒸発散を適切に表現できるモデルを導入する必要性があることを意味している。
(防災年報第48号Cにて発表済)13ページpdfファイル
「CReSiBUCによる練馬豪雨の再現」
本研究では、1999年7月21日に発生した練馬豪雨を事例として取り上げ、都市が陸面過程として降水に及ぼす影響を、詳細な陸面過程を組み込んだ雲解像モデルCReSiBUCを用いて検討する。都市の存在が練馬豪雨発生に与える影響を明らかにするために、陸面の状態を変化させた4種類の条件を与えて感度実験を行った。CTLでは、降水量は現実(90 mm)に及ばないものの、降水域が局所的であることと、まとまった量の降水が都市部において生じていることから、練馬豪雨の特徴は概ね再現されているといえる。土地利用分布に対して行った感度実験PDY、UBNでは、それぞれ降水域がCTLと比べて東西方向にずれており、都市の有無が降水域の形成位置に影響を与えたことが示唆される。一方、人工排熱を与えた感度実験AHDでは、CTLに比べて3時間積算で30 mm以上の降水を生じた領域が大きくなっており、降水域の水平規模が大きくなっていることがわかる。AHDでは、人工排熱を考慮したことによりヒートアイランドが強化され、これによって都市部における風の収束も大きくなり、その収束量はCTLのおよそ1.5倍に強化された。つまり、このようなより強い収束が、水蒸気のより大きな集中化を招き、降水域の水平規模の増大と降水量の増加を引き起こす要因となったと考えることができる。以上の結果から、短時間・局所的な強雨現象においては、都市をはじめとする陸面過程が降水域の形成位置や水平規模に影響を与えていることが示唆される。
(水文・水資源学会2005年研究発表会にて発表予定)
2ページpdfファイル
「強制復元モデルへの土壌凍結・融解過程の導入」
Attention has gathered around problems regarding climate change such as global warming. Focus has been given to land surface schemes (LSSs), as they mainly aim to be used for numerical weather prediction (NWP) models and general circulation models (GCMs), which can be used for prediction of such problems. Precise predictions of climate processes and climate changes require accurate predictions by LSSs. Tibet and Siberia are selected as important areas for the investigation of the cold season's processes. Energy transfer due to phase change of soil moisture can greatly influence the energy and water cycle. To incorporate freezing/melting processes to the Simple biosphere including urban canopy (SiBUC) model, some modifications have to be made. SiBUC showed good results after the inclusion of the new modifications. The prediction of melting process of soil moisture was successfully obtained at Tiksi in Siberia.
(濱辺良 修士論文概要)8ページpdfファイル
「余呉高原スキー場における積雪・微気象観測(琵琶湖プロジェクト)」 (プロジェクト研究活動状況に記載)
「深泥池における微気象観測(環境省環境技術開発等推進事業)」
京都市北部に位置する深泥池は2万年以上前に形成されたと考えられている。動植物の種が非常に多様であり、冷温帯と亜熱帯の残存種が周囲わずか1kmほどの小さな池の中に共存している。ミズゴケの堆積により形成されてきた浮島が池の中央部に存在するという特殊な構造を持つため、深泥池の水・熱収支特性は他の植生や水面とは異なるかもしれない。深泥池およびその集水域の水・熱収支を定量的に明らかにするために、2005年1月より微気象要素並びに関連水文要素の計測システムが立ち上げられた。下向き放射、風速、降水といった基本気象要素が共通要素として計測される。さらに、上向き放射、ボーエン比、水温プロファイルが各地表面で計測される。観測ターゲットはミズゴケ(シュレンケ)、ブッシュ(ビュルテ)、ミツガシワ、開水面、落葉森林の5つである。観測開始から3ヶ月分のデータを解析した結果、観測対象の5地点の熱収支特性は大きく異なり、池全体の蒸発散の見積もりが容易ではないこと、中央の浮島が断熱材のような働きをしており、熱収支の季節変化を大きく緩和していることなどが示唆されている。今後も観測を継続し、少なくとも1年間(できれば数年間)のデータセットを取得することが重要であり、このデータは深泥池の水・熱環境を議論する上で非常に貴重なものになるであろう。